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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2055号 判決

控訴人 永田武

右訴訟代理人弁護士 山田俊夫

被控訴人 静岡日野自動車株式会社

右代表者代表取締役 杉本栄一

右訴訟代理人弁護士 鈴木光友

主文

1、原判決をつぎのとおり変更する。

2、控訴人は被控訴人に対し金七七、七〇六円およびこれに対する昭和四五年五月一七日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

3、被控訴人のその余の請求を棄却する。

4、訴訟費用は第一、二審を通じてこれを四分し、その一を控訴人、その余を被控訴人の各負担とする。

5、この判決の第二項は仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、つぎに附加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

一  本件自動車の売買契約に基く代金債権は、民法第一七三条第一号の「小売商人が売却した商品の代価」に該当し、二年の短期消滅時効により消滅するものであるところ、債務不履行による損害賠償請求権の時効期間は、本来の債務の性質によって定まるものであるから、売買契約解除に基く本件の損害金請求債権も右の短期消滅時効に服し、被控訴人において右契約が解除されたと主張する昭和四二年四月一日から起算し、二年の経過により消滅した。

二  本件の自動車修理代金は、民法第一七〇条第二号の「技師、棟梁および請負人の工事に関する債権」に該当し、三年の時効によって消滅する。従って、右修理代金債権は、被控訴人が最終的に修理がなされたと主張する昭和四〇年八月二〇日から起算しても、右修理代金の請求を受けた昭和四五年四月二四日までに三年以上を経過しているので、時効により消滅した。

三  控訴人は原審において「本件については昭和四五年四月二四日被控訴人から催告がなされるまで四年余の間一回の請求もなかったから、すでに全部解決ずみと思料している」旨暗に時効の抗弁と解される趣旨の主張をしているが、控訴人が右の主張を明確に時効の抗弁として主張しなかったのは法律知識に乏しかったためであって、控訴人に故意または重大な過失はなく、また、控訴人主張の時効の抗弁は、新たな証拠調をするまでもなく、既に提出されている証拠資料によって十分判断できるから訴訟の完結を著しく遅延せしめるものでもない。

(被控訴人の主張)

控訴人主張の時効の抗弁は、原審において全く提出されず、当審においてはじめて主張されるに至ったものであって、民事訴訟法第一三九条にいわゆる時機に遅れた攻撃防禦の方法であるから却下さるべきである。なお、自動車修理代金の消滅時効期間は通常の商事時効の五年である。

理由

一  被控訴人が控訴人に対し、本件自動車の売買契約の解除により金七七、七〇六円の損害金債権を有し、また、自動車修理代のうち金として合計金一七〇、一〇〇円の債権を有することは、原判決理由一、二(原判決四枚目表八行目から同五枚目裏二行目まで。但し、同五枚目表八行目「なお」以下一一行目までを削除する)記載のとおりであるからこれを引用する。

二  そこで控訴人主張の時効の抗弁について判断する。

(一)  本件記録によれば、控訴人は右時効の抗弁を原審においては明確に主張せず、当審においてはじめて主張するに至ったのであるが、右抗弁は、その主張自体に徴し、著しく本件訴訟の完結を遅延せしめるものとは認められないから、いわゆる時機に遅れた攻撃、防禦方法に当らない。

(二)  控訴人は、本件損害金債権は民法第一七三条第一号に該当し、二年の時効により消滅する旨主張する。しかしながら、右損害金は、すでに認定したとおり、本件自動車の売買契約が解除されたことに伴い、右契約上の特約に基いて発生した債権であって、同条第一号所定の商品の売却代金ないしこれが履行されなかった場合に認められる履行に代わる損害賠償請求権とは、その発生原因および性質を異にするのであるから、本件の損害金債権の時効期間は通常の商事時効である五年と解すべきである。そして、本件の売買契約が解除された昭和四二年四月以降、本件の損害金の請求がなされた日であることにつき控訴人の自陳する昭和四五年四月二四日までに五年の期間が経過していないことは明らかであるから控訴人の右抗弁は採用できない。

(三)  つぎに控訴人は、本件自動車修理代金は民法第一七〇条第二号に該当し、三年の時効により消滅すると主張するので按ずるに、≪証拠省略≫によれば、被控訴会社は、自動車販売のほか傘下営業所にサービス課を設けて自動車の修理に当っているものであって、本件の修理代金は、控訴人の依頼により被控訴会社浜松営業所のサービス課においてした部品の取替、脱着等自動車修理に要した費用であると認められるところ、このような費用は、現時における自動車修理の取引慣行上速かに決済されることを必要とするから、右修理代金は民法第一七〇条第二号に規定する「請負人の工事に関する債権」に該当し、三年の短期時効により消滅するものと解すべきである。してみると、本件修理代金は、最終の修理がなされた日である昭和四〇年八月二〇日の翌日から起算しても昭和四三年八月二〇日を以て時効期間が満了し、同日の経過とともに消滅に帰したものというべきである。

三  以上のとおりであるとすれば、被控訴人の本訴請求中被控訴人が控訴人に対し前記損害金七七、七〇六円とこれに対する本件支払命令送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四五年五月一七日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は正当であるがその余は失当であるから、原判決を一部変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九五条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畔上英治 裁判官 下門祥人 兼子徹夫)

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